藤原良相が目をさますとそこはどうも法廷のようだった。目の前には役人を思わす男が座っていて、それ以外にも幾人の役人の姿があります。
 確か高熱を出し、家でうなって眠っていたはずだ。そして妙な男に声をかけられて、気付けばここにいたのだ。
「藤原良相。ここは閻魔庁である」
 目の前の男が閻魔王だ。そう思うとあの男は死神で、自分は死んだのだ。
「大臣は、正直で良い人だ。私に免じて許してくれないか」
「篁がそういうのなら立派な人物なのであろう」
 そういった男は藤原良相の知っている小野篁であった。
「この男を戻せ」
 死神と思える男に連れられ、藤原良相は屋敷に戻った。病は癒えていた。

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 地獄のお手伝いするといわれる人間がいます。
 小野篁はそんな一人です。
 彼は、歌人として知られていますが、遣唐使に任じられながら揉め事の為に船に乗らずに流刑にされたこともありました。それ以外にも、おかしいと思うと、約束事を守らない事から風狂の人と呼ばれました。むしろ小野小町の祖父であるといった方が通じがよいでしょうか。役人としては、弾正台(非違の糾弾・弾劾をする部署で、『ただすつかさ』とも読みます。今で言う検察)の次官や、勘解由使(役職の前任者と後任者との間で利益を巡る争いを裁く部署。とくるよしかんがふるのつかさ)の長官を勤めました。
 その際の公明さが、小野篁を冥界にといざない、閻魔第三の冥官として、閻魔さまの補佐を勤めさせる事になったのでしょう。

 生身のまま地獄に行くにはどうしていたかというと京都にある六道珍皇寺の井戸から下り、嵯峨の清涼寺横の薬師寺境内の井戸から上ってきたといいます。六道珍皇寺は篁堂といわれる建物があり、等身大の閻魔さまの像と篁の姿を見ることができます。